30代後半にもなってくると、会社から管理職の声がかかる人も出てくるだろう。管理職になるべきか、それとも現場で技術を磨き続けるべきか、多くのAIエンジニアが迷う時期でもある。
本記事では、その迷いを解消するための参考材料を提示する。

1. 自分の「管理職としての力量・適性」を客観的に評価する

管理職の仕事を一言で言うと、「大きな仕事を分解し、与えられたリソースを元に、他者と協力して成果を出すこと」と言える。

管理職には大きな目標が降ってくるため、担当者レベルの粒度に分解し、それぞれできそうな部下に仕事を振る。もし、部下が忙しかったり、スキルが足りなかったり、リスクが大きすぎる場合は、お金を払って別会社や他部署に依頼をする。そして、依頼した仕事をモニタリングして、問題があれば適切に指示する。

もしあなたが、このようなタスク管理、リスク判断、他者への指示ができる人で、かつ仕事内容に面白みを感じるならば、管理職適性は高いだろう。マネジメントスキルは、経験でしか身に付かないため、40代以降の仕事としては筋が良い。また、転職時でも、よほど企業規模が異なる場合を除き、非管理職から管理職の転職は難しい。そのため、自社で管理職になれる機会があるならばなっておくという考え方もできる。

ただ管理職になると、当然ながら職務範囲と責任が増える。自分一人で達成できるような仕事ではなく、多くの人間の協力を得て、なんとか達成できるかどうかという仕事になる。プレッシャーは大きい。仕事は広く浅くになるので、特定領域を突き詰めることはできなくなる。

もしリスクを見逃していたり、部下の誰かがミスをしたら、それは管理職が解決しなければならない。部下が全員優秀で素直ならばよいだろう。しかし、そんな幸運はあまりない。例え部下が信じられないミスをしても、深く深呼吸をして、冷静に原因をヒアリングし、具体的な対策を打って、問題解決していかなければならない。

管理職は、人の管理が大きなウエイトを占める。人間に全く興味がない人は管理職には向いていない。一方、人への興味が深い人ならば、多くの人に慕われる優秀な管理職になれる可能性が高い。

2. 現場を離れても良いか考える

AIエンジニアとして職歴を重ね、実力がついてくると、プレーヤーとして優秀な働きをしたり、小規模チームをリードして、期待値を大きく超えることもあるだろう。自社プロダクトの開発をリードして完遂したことや、最終報告会で役員に高く評価されたこともあったかもしれない。特定分野の有識者として、周囲から高く評価されたり、論文を執筆して学会発表した経験もあるかもしれない。

AIエンジニアの仕事は、非常に魅力的だ。最新技術を短期間で習得し、プロダクト開発や業務変革を推進するということは、誰にでもできる仕事ではない。高度な数理的素養に加え、ソフトウェアの知識、仮説構築能力やプレゼン能力など、求められるスキルは多岐に上る。だからこそ、AIエンジニアの単価は極めて高いのだ。周囲の同僚を見て欲しい。大半が優秀だろう。旧帝大早慶の上位層がAIエンジニアになっているのだ。若手も優秀だし、業界を切り開き今生き残っているベテラン層ももちろん優秀だ。

管理職になるということは、彼らを率いる立場だ。優秀な人が多いため、ある意味管理はそこまで大変ではないかもしれない。しかし、現場の主役は彼らなのだ。管理職は、彼らが最大のパフォーマンスを発揮するために下支えすることが使命となる。やりがいは大きいだろう。管理職として、組織全体の成果に貢献するやりがいは大きい。あなたの存在感は大きくなり、あなたの意見は常に重要な発言として扱われる。しかし、好奇心ドリブンで仕事をするというのは難しくなるかもしれない。

近年生成AIが登場し、AIエンジニアの仕事は新たな局面を迎えた。苦しいと言えば苦しいが、面白いと言えばこれほど面白い場面はそうはない。
もし苦しさが上回るなら管理職になる選択肢は有力だ。楽しさが上回るなら現場で戦うべきかもしれない。好奇心の赴くまま技術進化の波に乗って、優秀な同僚とワイワイやりながら現実的な価値を創造していくべきだろう。

3. 昇進のメリット・デメリットを比較する

管理職になると、給与や自尊心が満たされるといった利点が増える一方、プレッシャーや意思決定のストレス、現場を離れるという欠点もある。これらを比較して、自分にとってメリットと感じられるかを考えることが必要となる。

管理職になれば会社の給与は上がるが、AIエンジニアなら土日少し副業すれば、それ以上のお金を稼ぐことは難しくない。平日夜や土日働くのは嫌かもしれないが、管理職になると嫌でも土日も頭のどこかで仕事のことを考えることになるので、そこまで差異はない。そのため、お金という観点では大きなメリットにはならないだろう。

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一方、地位向上に伴う自尊心が満たされるというのは、馬鹿にされがちだが意外と無視できない。人間は遺伝子レベルで社会的な生き物なので、組織の中で自分がどの位置にいるのかをかなり気にして生きている。管理職になるということは、組織の中で権限を与えられた重要な人物になるので、自尊心は満たされるだろう。同僚が昇進する中、数年後40代になっても非管理職のままでイチエンジニアとして働くのは、辛いと思うシーンがあるかもしれない。

つまり、あなたの会社に、管理職以外のキャリアがどの程度整備されているかによって、管理職のコスパは変わってくる。管理職以外の専門職コースが整備されているならば、無理に管理職になる必要はないだろう。AIエンジニアとして、自身の専門性を鍛え、周囲の優秀な同僚とともに、生成AIが切り開く未知の領域を楽しんでいけばよい。

一方専門職コースが存在しない、もしくは有名無実化しているならば、管理職としてのコスパを冷静に評価するべきだろう。まず管理職を数年経験し、向いていなかったら管理職一歩手前位の役職で他社に転職する道もある。管理職経験は他社でも高く評価される。管理職やリーダーの大変さがわかるメンバーは、組織全体のリーダーシップ向上に貢献する人物だからだ。

まとめ

30代後半のAIエンジニアが、管理職になるかどうかを考えるうえで、参考材料を書かせていただいた。正直私の周囲では、管理職希望者が少ない。おそらくあなたの環境でもそうだろう。

逆に言えば、もしあなたに管理職の適性が一定程度あり、管理職をやってみたいと思われるなら、意外に簡単になれる可能性が高い。もしあなたが挑戦する姿勢を見せたならば、会社は大きく後押ししてくれるだろう。