生成AIの急速な発展により、未経験者でも生成AIエンジニアとしてのキャリアを築けるチャンスが広がっています。本記事では、現役の生成AIエンジニアが、現在の市場環境を解説し、未経験から生成AIエンジニアになる方法を解説します。

生成AIの市場規模は急拡大する

電子情報技術産業協会(JEITA)によると、生成 AI 市場の世界需要額は年平均 53.3%(日本は47.2%)で成長し、2030 年には 2,110億ドル(日本は1.8兆円)となる見込みです。

参考記事:JEITA、生成 AI 市場の世界需要額見通しを発表

市場規模の内訳は、生成AI関連アプリケーションが圧倒的に多く(世界で92%,日本で86%)、基盤モデルを搭載したシステム開発のニーズが今後急激に増加すると考えられます。

2030年までの7年間で、市場規模が15~20倍になるというのは凄まじく、生成AIを開発・活用する企業が増加することは確実で、生成AIエンジニアの需要も高まっていくでしょう。

日本企業は生成AIの導入に苦戦

「生成AI」の導入率は24.2%で、生成AI以外のAI・機械学習の導入率は28.7%だった。生成AIについては「導入を検討中」との回答が30.8%と多く、「今後検討したい」との回答も26.0%に上ることから、今後の導入進展が期待されるとしている。
引用元:生成AIの導入率は24.2%、リテラシー・スキル不足など課題か──NRIがIT活用実態調査を発表

NRIによると、日本企業の生成AIの導入率は24%で、「検討」まで入れると8割とのことです。まだまだ検討フェーズの企業が大半のようです。また、導入している企業のうち、投資対効果を出している事例はかなり少ないと想定されます。

例えるなら生成AIは、ハーバード大学を首席で卒業した優秀な新入社員といったところでしょうか。

彼は、幅広い分野に精通しており、特にコンピューターサイエンスが得意です。日本語に加え、英語と中国語も理解できます。しかし、具体的な指示がないと仕事ができないし、社内の業務プロセスや慣習に不慣れで、自分の意見を積極的に言いません。多くの人が彼の実力も認めらながらも、うまく活躍の場を与えることができず、彼を活用する方法に頭を悩ませています。

最近、教科書を元に顧客との会話を任せたところ、わりとうまくいったので、今はどの企業もこの教科書作戦(RAG)をとりあえず採用しています。低コストで実現できることも嬉しいところです。

今後新たなベストプラクティスが生まれ、より広い業務活用が見込まれますが、そのためには、最新技術動向を調査し、動作検証して、自社業務に活かかせるか見極めができる人材が不可欠です。

日本の大企業の方が人材の枯渇感が強い
一方、AI開発に必要な人材とスキルに関する現状を尋ねたところ、十分確保できている割合は、海外企業が22%であったのに対し、日本の中堅企業は10%、大企業では7%でした。一方、「慢性的に」および「時として」人材が不足しているという回答は、海外が26%なのに対して、日本の中堅企業は34%と多少高くなり、大企業では実に64%と大幅に高くなっています。
引用元:Gartner、AIへの組織的な取り組み状況に関する調査結果を発表

しかし、日本の大企業の64%が、生成AI人材に関する人材不足と回答しています。これから、生成AIエンジニアを目指す場合は、大企業が狙い目といえます。

生成AIエンジニアは、ビックテックに加え、Web系企業、コンサル、SIerで働く人が多いですが、加えて、自社で生成AIを活用したい日本企業が増えていくことで、事業会社で働く生成AIエンジニアが増えると予想します。

AI技術の民主化でプログラミングの重要性が下がる

生成AIを活用するためのノーコードツールが登場し、プログラミングの知識がなくても簡単にAIアプリケーションを開発できるようになりつつあります。まだ発展途上の感はありますが、GPTsやAssistants APIのような生成AIプラットフォームは、今後急拡大する可能性が高いです。必然的に、高度なプログラミングスキルの必要性は下がります。

まだ現状は生成AIが出力したコードが誤っていたりするので、修正のためプログラミングスキルの必要性はあります。というより、生成AI活用でエンジニアの生産性が上がり、以前よりプログラミングの価値が高まっていると言えます。

しかし、数年後にはノーコードツールや生成AIプラットフォームが成熟し、ユーザーが欲しいサービスを日本語で依頼すれば、簡単に作られる世界になるでしょう。AWSやAzureがPaaSサービスをUIで構築できるようにしましたが、生成AIを搭載したSaaSサービスでは、よりもっと簡単に構築できるようになると考えられます。

つまり、プログラミングの知識がほぼなくてもAIモデルを構築・活用できるようになってきたことで、プログラム未経験者でも生成AIエンジニアへの参入が容易になったと言えます。

データサイエンスの専門知識は今後も重要性が高い

将来的なプログラミングの重要性低下は、データサイエンスの専門知識が不要になることを意味しません。生成AIの論文を生成AIに要約させたとしても、正しく読み解くには生成AIやデータサイエンスの専門知識が不可欠です。
また生成AIを搭載したシステム設計には、業務理解に加え、AzureやAWSなどのクラウドの知識、データベースの知識が必要です。

単純なRAGのシステムは、作ろうと思えばすぐに作れます。しかし、企業の導入となると話は別です。企業の担当者からヒアリングして業務要件を理解し、業務設計して、生成AIの適合性を検討し、癖のあるドキュメントや雑多なPDFファイルを前処理して、膨大な論文から適切な手法を選定し、精度の高いRAGシステムを導入するには、データサイエンスの専門知識が必要不可欠です。

未経験から生成AIエンジニアになる場合、この専門知識が一番のハードルになるでしょう。しかし、過度に恐れる必要はありません。疑問点はChatGPTやClaude3に質問すれば、丁寧に教えてくれます。

そしてここさえ超えれば、一気に道が開けてきます。

参考記事:LangChainとRAGで実現する先進的なAIチャットボットの開発

挑戦する人にはチャンスが回ってきやすい環境

生成AIの研究は急速に進歩しているため、大学などの教育機関でのカリキュラムが十分に整備されていません。したがって、企業は即戦力となる経験者だけでなく、未経験者も採用し、社内で育成する必要性が高まります。

また、生成AIの実装には、複数のAI技術を統合する能力が求められますが、大学の教育では個別の技術に焦点が当てられることが多いです。加えて、生成AIの倫理的・社会的影響について議論する機会が、大学のカリキュラムの中で十分に提供されていないでしょう。

企業も状況は同じで、仮に生成AI研修を開発したとしても、2か月後には情報が古くなっているので、基礎的な研修しか成立しません。もはや、教育の概念を変える必要があるのでしょう。

逆に言うとこれはチャンスで、体系的に生成AIを学んでいる人がいないため、自発的に学べば大きくリードできるということです。特に生成AIは多少お金もかかるので、特にAPIを利用するのはハードルもあります。そこを乗り越えて、最新技術の動作検証などに挑戦していけば、比較的短期間で良いポジションが得られる可能性があると考えます。

未経験から生成AIエンジニアになる方法

未経験から生成AIエンジニアになるには、以下の手順を推奨します。

①生成AIの基礎知識を学ぶ

まずは、生成AIの基本的な概念や原理を理解します。例えば、東京大学松尾研究室が提供しているLLM(大規模言語モデル)に関する講義資料は、優れた教材の一つです。これらの資料を通じて、生成AIの仕組みや応用範囲について学びます。

もしくは、以下の書籍の1~3章もおすすめです。大規模言語モデルの概要、プロンプトエンジニアリング、OpenAI APIの基礎について学べます。



②RAGと関連するデータサイエンスを理解する

次に、RAGの概念を理解し、実際にRAGを用いたチャットボットを作成してみます。開発プロセスを通じて、RAGの基本的な仕組みや利点を体感的に理解できます。教材は、上記の書籍の8章がおすすめです。RAGについて丁寧に解説されています。

RAGを学んでいく中で、データサイエンスの基礎知識がないと分からないことが多々あると思います。例えば、「ベクトルDB」「ベクトルの類似度計算」「Pythonの使い方」など、一般的なデータサイエンスの理解ができない部分が出てくると思います。
理解できない部分は、調べて一つずつ理解することで、RAGとデータサイエンスの知識を得ることができます。

また、実際に作ったRAGの精度を測定し、改善方法を検討してみましょう。なぜ精度が低いのか、出力結果を確認していきます。おそらく最初の検索で失敗していることが多いと思うので、何らかの改善を検討します。

もしドキュメントに冗長な表現があれば削除し、質問に関係のないページがあれば削除してみます。また、ベクトル検索の方法もいくつかあるので、精度を比較してみましょう。Microsoftの比較検証結果も参考になるかもしれません。

さらにRAGに踏み込みたい方は、RAGに関するサーベイ論文を読むことで、最新の手法や応用例を学ぶことができます。特に、「Retrieval-Augmented Generation for Large Language Models: A Survey」は、原文を読んでも良いですし、わかりやすい解説記事が多数公開されているので、参考にしてください。

③最新技術を動作検証する

その後、Assistants APIDifyなどの最新技術を実際に試してみます。これらのツールを使いこなすことで、生成AIの実用的な応用方法を学ぶことができます。自分の興味や目的に合わせて、適切な技術を選択し、動作検証を行いましょう。

最新技術を触っているメリットは、同じように最新技術を触っている人と繋がれることです。また、基本的に大半の人は触ってないので、周りから「なんか凄いことしてる」「生成AIに詳しい」という印象を与えることができます。

④プロジェクトを通じて実践経験を積む

学んだ知識を活かし、自分でプロジェクトを立ち上げてみます。例えば、特定のドメインに特化したチャットボットや、社内向けの検索サービスなどを提案し、実際に開発してみるのが良いでしょう。プロジェクトを通じて、生成AIの実装方法や課題解決のノウハウを身につけることができます。

ただし、会社としてChatGPTの利用を禁止しているかもしれません。また、ハードルも高いです。軽く上司に提案してみて、厳しそうなら⑤に移ってください。
もし提案が通ったら、あなたは晴れて生成AIエンジニアです。

⑤コミュニティに参加し、情報交換する

生成AIに関するコミュニティに参加し、他のエンジニアや研究者との情報交換を行います。勉強会やハッカソンなどのイベントに参加することで、最新の技術動向や応用事例を学ぶことができます。また、自分の知識や経験を共有することで、リファラル採用などのお誘いがあるかもしれません。

⑥転職活動を行う

④のプロジェクト立ち上げや、⑤のリファラル採用に目途が立たない場合、転職活動を始めます。転職エージェントに登録する方法と、自分で求人情報をリサーチして応募する方法に分かれます。

ポイントは、臆さずに大企業にも積極的に応募することです。ベンチャー企業は、実力主義なので、技術力をしっかり見られます。一方大企業は、良くも悪くも人物重視なので、生成AIの技術知識に加え、これまでの業務経験や人物評価がはまれば内定を取れることもあります。また、人材不足感も大企業の方が強いです。

大企業と言っても、生成AIに関してはここ1年以内に取り組んできた企業ばかりです。最新技術を学んできたあなたが、引け目を感じる必要はありません。対等に堂々とアピールしていってください。

まとめ

未経験者でも、Pythonの基礎知識、機械学習と自然言語の専門知識に加え、生成AIの最新技術の動作検証に挑戦していれば、生成AIエンジニアとしてのキャリアを始められる可能性が十分あると言えます。

言ってみれば、一斉によーいドンした状態です。少し踏み出すだけで、今起きている社会の大きな変革を、特等席で見れる立場になれるかもしれません。

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