安宅さんの「シン・二ホン」を読みました。
東京駅の丸善にたくさん並んでいて、安宅さんの本ということで買いました。400頁を超える大作ですが、面白いのでスラスラ読めました。特に前半4章までが面白いです。




「シン・二ホン」の内容を3行でまとめる

「シン・二ホン」の内容を3行でまとめました。

①日本経済は30年全然成長していない。理由は生産性が低いから。
②全ての産業がデータ×AI化される。その結果生産性が高まる。
③人材が足りないので育てなくてはならない


全ての産業がデータ×AI化されるという主張は、事例などで根拠を補強されています。いわゆるデジタルトランスフォーメーション(DX)と同じ文脈でしょう。

では全産業のデータ×AI化に向けて、何が課題になっているのでしょうか。引用します。

人材の質に大いなる課題がある。大半がSIerにおける古典的なプログラマー、コードを書く人といった人材であり、研究と開発のギャップを乗り越えられる人が少ない。すなわち、自然言語処理や機械学習などの研究・実験環境を、堅牢で大規模かつリアルタイムの本番環境につなげられる人材が足りていない。 
シン・二ホン p.104から引用

実験環境(研究)と本番環境(開発)のギャップが、データ×AI化の壁になっているようです。

研究と開発のギャップ要因は「投資対効果」「要件定義」「ITアーキテクチャ」

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データ×AI化の壁は、研究と開発のギャップにあります。ではどうすれば、埋めることができるのでしょうか。

研究業務は、何かを発見することが価値になります。そのために、リサーチして仮説を立てて検証していきます。よく言えば自由で裁量が大きい仕事です。
悪く言えば納期の意識が薄く、気ままに論文を読んだり実験しているだけになったりします。機械学習や自然言語の領域は、毎日多くの論文が出されているので飽きることはないでしょう。

開発業務は、システムを納品することが価値になります。なのでまず「要件定義」ありきです。要件が決まってから、設計、プログラミング、試験をしていきます。もし堅牢で大規模かつリアルタイムという要件があるならば、そのために必要な「ITアーキテクチャ」を設計していきます。

またシステム開発の目的は、会社の売上やコスト削減です。システム開発は経営そのものです。導入システムには「投資対効果」が厳しく問われます。
研究業務では予算や納期があいまいでも、開発業務では予算と納期ががっちり固められるのです。

つまり研究と開発の間には、「投資対効果」「要件定義」「ITアーキテクチャ」にギャップがあります。

要求定義に潜むデータ×AI化の闇

投資対効果」「要件定義」「ITアーキテクチャ」の3つを俯瞰してみたときに、「ITアーキテクチャ」は技術的なスキルの問題です。今は人材の数が足りませんが、今後増やしていけばよいことです。またクラウドの進化に伴い、アーキテクチャ設計自体がより簡単になることも予想されます。

一方「投資対効果」と「要件定義」はより根深い問題です。まず前提として、機械学習システムは確率的な処理のため、やってみなければわからない世界です。不確定要素があるわけです。

既存の業務システムに機械学習システムを搭載することで、この不確定要素の範囲が広がってしまいます。リスクが拡大されるのです。リスクの拡大を、経営層はどう考えるでしょうか。「それでもやるんだ」と決断できる経営層はそう多くはないように思います。

加えて、機械学習などデジタル関連の技術進歩はとても早く、どの業務領域まで適合できるか日々変わります。投資対効果の前提条件が日々変わっていくわけです。

「経営層の期待値」から「システムの要件定義」に落とし込むまでの間にデジタル化の闇があるように思います。一言でいうと「要求定義」です。

夢と金を語る経営層の要求と、システムを利用する業務担当者の要求と、既存システムの品質要求と、技術的な実現性評価を整理し、一つの仕組みにまとめ上げることができていないことが今の日本企業の課題ではないでしょうか。

難易度の高いタスクです。DX推進部門は四面楚歌です。安宅さんの言われる「夢を描き、複数の領域をつないで形にしていく力を持つ人が大切」というお話も良く分かるのですが、現実はあまりに厳しいと感じるのです。
(安宅さんは日本でトップクラスに頭が良く経験も非常に豊富な方なので、このような問題は十二分に把握した上での発言だということはよく理解しています)

DX推進マネージャーは要求定義ができる人材

デジタル化の要求定義は難しいです。そうはいっても始まらないので、誰かががんばらなくてはなりません。今一番頑張っているのは、一部の外資系コンサルティングファームでしょう。デジタルコンサルと称して、様々な部署からヒアリングして顧客の課題を定義し、デジタル化の具体策に落とし込んでいっています。

もちろん多くの失敗談も見聞するのですが、案件の難易度を考えれば当然です。今後キャッチアップしてより洗練したフレームワークなどを開発していくでしょう。

成功事例が多い某外資コンサルの話を聞いて思うことは、機械学習やITの相当な技術力があって、かつ自分からビジネス面の提案をしていける人材をマネージャーに据えている(採用している)ことです。技術とビジネスが分かるマネージャーが陣頭指揮して、一つ一つの要求に落とし込み、四面楚歌の状況を突破していっています。

いわばデジタル化の要求定義にリーダーシップを発揮できる人材です。

業務部門とのミーティングで、ホワイトボードで課題をロジックツリーで整理したり、機械学習の前提知識がずれていると感じたら、「機械学習って要はこんな感じです」とノートでさらっと説明して、こちらのシナリオに誘導していく人材です。

例えば、コンサルティング業界の経験がある方、事業開発の経験がある方、データサイエンティストでビジネス面の話が好きな方は、DXの上流工程を担うシニア職として、狙ってみるのも良いと思います。
経験がものをいう仕事なので、「最新技術を追いかけるのも少し疲れてきたので、そろそろビジネス側にキャリアを半分ずらしたい」と思っている30代の方にはおすすめです。年収水準は最低1000万円からの世界です。

参考記事:転職エージェントにボコボコにされて未経験からAIエンジニアに転職した話

マインドセットとしては以下のイメージです。
・データに対する仮説検証だけではなく、ビジネスに対する仮説検証もやってみたい人
・いろんな人に手助けしながら情報を集めていって、全体像を重ね合わせることができる人
 (全体像が見えるとチームを素晴らしいものに見せられる)
・簡易的なPOCやツール開発なら、独力でサクッと実行できる人

事業部側での求人では、「DX推進マネージャー」とか「DX戦略推進室のシニアデータサイエンティスト」などの役職名で募集されている仕事です。
求人側企業も、データを活用して何をやるべきかわからないが、何かが必要な気がしているので、こんな役職で募集しているのでしょう。

技術者なくして事業設計なし

今起きていることは、「これまで技術者は必要に応じて使われるだけだったが、情報技術の影響力が大きくなりすぎて、技術者なしで事業設計ができなくなっている」と理解しています。

例えば、現職の技術者の3%が、コンサルティングやPdMのロールを担うことで、日本企業もだいぶ変わってくるのではないでしょうか。日系大企業にも、デジタル技術にめちゃくちゃ詳しい経営者が出てくることでしょう。

関連記事:PythonでAIプログラミングできるビジネス人材は強い