皆さんは、CDOという役職をご存じでしょうか。

「最高デジタル責任者(chief digital officer)」や「最高データ責任者(chief data officer)」と言われており、企業のデジタル戦略やデータ活用を推進する役職のことです。日本でも徐々に設置が進んできています。

これからAIエンジニアを目指す方や、現在機械学習プロジェクトに関わる方にとって、CDOという役職はキャリアアンカーの1つになるでしょう。

私自身、現在機械学習エンジニアとして仕事をしていますが、そろそろ将来的なキャリアを考えたいと思い、CDOの職能を調査・分析し、本記事にまとめました。

米国中心にCDO(chief digital officer)の設置が進んでいる

ICTアドバイザリ業界で米国最大手のガートナーによると、2019年末までに大手企業の90%がCDOの役職を設けると予測されています。

一方日本では、PwCコンサルティングの調査によると、日本でCDOを設けている企業の割合は2015年に0%、2016年に7%とのこと。今後かなり伸びることが予想されます。

いろいろ調べてみましたが、CDOを一言で言うと、「企業のデータ活用の司令塔」と言えるようです。世の中が「ビックデータ」「AI」「IoT」などのキーワードを軸にデジタル化が進んできているので、会社としてもデジタル化に対応しないと潰れてしまうという懸念があるようです。そのため、司令塔を置いて世の中の変化に対応しようというのが趣旨のようです。

CDO Clubという経営陣のコミュニティもあるようです。米国で設立され、現在世界各国に5000人以上のメンバーがいるとのこと。結構多いです。日本での活動も活発なようです。

今後日本でも、CDOを設置する企業が爆発的に増えてくる可能性があります。つまり、CDO人材への需要はかなり高いと言えるでしょう。

ではCDOとは、具体的にに何をする人なのでしょうか。

CDOに求められる4つの役割とは?

まず企業の全体像について、ざっくりと概観してみます。
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企業と言うのは、まず「経営戦略」があります。例えば、「3年後に売上を2倍にする」という目標が設定され、具体的な戦略として、「営業担当者を2倍にする」とか「営業事務の作業を半分にする」などの方向性を定めます。

これらの方向性を受けて、顧客接点としての「営業業務」と、サービスの作り手である「開発業務」があります。他にも業務プロセスを担う部署はたくさんありますが、ここでは話を簡略化するために2つに絞ります。

そして現代の仕事の大半は情報処理です。企業には多くの「情報システム」が存在します。
顧客のデータを集めたり、今年度の売上を計算したり、社員の勤怠データだったりと、それぞれの業務システムを活用して「データ」を蓄積しています。

現代企業の課題感として、データの蓄積と管理はしてきたけれども、データの活用はあまりやってこなかったという背景があります。

そこにデータ活用の手段として、彗星のごとく"機械学習"が登場しました。機械学習を使えばデータ活用も大きく進むのではないかと世の中の人々は期待しています。

企業のデータ活用をざっくり図解化すると、以下の4つになります。つまりCDOは、以下の4つのデータ活用を責任者として推進する役割です。
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①データによる経営陣へのアドバイス

「どうすれば利益があがるのか」という経営者の質問に、データを駆使して回答する仕事です。蓄積したデータを可視化、比較するようなデータサイエンティスト的なことをやりつつ、経営者が喜びそうな「良いこと」を経営コンサルタント的な感じで説明します。

つまり、経営者の課題に大いに共感しながら、課題を深堀して真因を探り、解決策をデータ的に発見して説明するという事です。AIコンサルタントの仕事と親和性は高いでしょう。

参考記事:AI人材になるにはスキルよりまず職種を選択しよう

②顧客接点改善による利益向上

「データを使って売上を伸ばせ」という経営者の命を受けて、データを駆使して回答する仕事です。顧客データを分析し、顧客のLTVを算出して優良顧客にアプローチしたり、離脱する顧客を事前検知して防止したりします。

顧客接点がECサイトであれば、Amazonのレコメンドエンジンなどは分かりやすいですね。購買データを活用しておすすめ商品を表示することにより、売上の拡大を実現しています。いわゆるデジタルマーケティング全般です。

③業務プロセスの効率化によるコスト削減

「データを使って生産性を上げよ」という経営者の名を受けて、データを駆使して回答する仕事です。開発業務などの生産活動には、通常多くの人間が必要です。工場が良い例ですね。またバックオフィスなどの事務作業もかなり人手がかかります。人手がかかるという事は、それだけ人的コストがかかりますので、経営者としては削減したいと考えます。

そこで機械学習やRPAなどで、削減を図ります。「人工知能が人間の仕事を奪う」と言われているのもこの部分です。一度ルールを決めてしまえばミスなく24時間働ける人工知能に、生身の人間が勝つことは難しいでしょう。
CDOは、現在の業務プロセスを分析し、現場の人達と協調しながら、実現可能性を探りつつ、機械学習やRPAを導入していくことが役割です。

④情報活用基盤や分析ツールの整備・運用

上記の①~③を実現するために、必要な情報活用基盤や分析ツールを選定し、運用する仕事です。もちろん0円では実現できません。
「①~③で年間〇〇万円の効果が得られます。そのために△△万円の投資をお願いします」と経営者にお願いすることになります。

また、世の中のデジタル技術への調査もここに含みます。現在scikt-learnなどのOSSが全盛なのにも関わらず、商用の〇〇万円の商用ツールを入れていたりすると、経営者に怒られるので常にモニタリングが必要です。
ITベンダがあの手この手で高額なツールの営業をかけてくるので、鉄の意識で断ることも重要です。

なお、情報システムを掌握するCIOとは、右手で握手し左手で殴り合うような関係になるでしょう。面倒なシステム保守をCIOになすり付けつつ、予算枠を確保して面白い分析業務をきっちり進めることが必要です。

参考記事:人工知能(AI)を自社に導入したい人はscikit-learnを利用しよう

その他:社内のデジタル面の意識改革

上記に加え、社内のデジタル面の意識改革も担当します。「データでこんなすごいことが出来るよ」と役員会や全社的な会議でアピールすることが必要です。ここでアピールしないと、業務担当のCOOやシステム部担当のCIOに協力してもらえません。

CDOは、社内の多くの部署と接点を持つ必要があり、かつ自分で売り上げを立てる組織ではありません。必然的に社内的な立場は弱くなる傾向があります。しっかり社内営業をかけて、全社的な合意形成を作り、デジタル戦略を強力に推進することが求められます。


上記①~⑤の司令塔がCDOです。最先端のテクノロジーを武器に、最も泥臭い社内政治を行うのがCDOと言えます。

CDOに求められる3つのスキルとは?

CDOの役割をざっくり言ってしまうと、「経営者のムチャ振りをかわしながら、他部署と利害調整を行い、機械学習を導入してデジタルマーケティングを進めつつ、RPAで業務プロセスを自動化し、情報基盤の整備をしながら社内の意識改革を推進すること」でした。

経営者の本音は、「ノーリスクで新しいことをしたい」というものなので、リスクを抑えつつ最新技術を導入することが求められます。

では、CDOには具体的にどのようなスキルが求められるのでしょうか。

1.リーダーシップ「利害調整が出来る」

関係者を巻き込み、導入に向けて旗振り出来るリーダーシップ能力は絶対的に求められるでしょう。技術を全く理解できない営業担当役員に、分かりやすく説明して合意形成することは、非常に難易度の高い業務です。
もしくは、利害が相反しやすいCTOのところに、単身で乗り込んで話をつけるような仕事もありそうです。

ビジネスと言うのは結局のところ人と人とのつながりなので、相手が何を求めているか分かる人は利害調整に向いていると思います。営業活動やプレゼン経験があると良いでしょう。

リーダーシップ能力を高めるためにおすすめの方法は、「会議でホワイドボードの前に立つこと」です。皆の意見を瞬時に理解して、皆が分かるように図解化して、合意形成を作っていくような仕事ができる人は、リーダーの見本だと思いますし、どこに行っても求められる人材でしょう。

2.データサイエンス「機械学習に詳しい」

機械学習エンジニアとして開発経験があったり、情報システム部門でAIの導入経験があると良いでしょう。新しい技術が好きな人は向いていると思います。

経営陣やリーダーの仕事の一つに、「ストーリーを語る」というものがあります。難易度が高いプロジェクトを成功に導いたリーダーは、将来に向けたストーリーを語る力が非常に高い人が多いです。孫正義社長などは代表例でしょう。

一方エンジニアとは、その未来を具体的なサービスとして実現する人です。そのため、エンジニアの言葉には強い説得力があります。出来ることと出来ない事を理解しているので、技術を知らない人はその言葉に従うしかありません。

技術の見極めが出来ないと、出来ないことにチャレンジして失敗したり、簡単に出来ることに多くのリソースを投下してしまったりします。

CDOが機械学習のプログラムを書くことはないでしょうが、「機械学習を理解するためにはプログラムを行って実案件の経験を積むことが最も早道」と言えます。

3.マネジメント「人材管理と意思決定が出来る」

経営スキルは経験でしか身に付きません。経営者やマネージャーとしての意思決定の精度は、これまでどれだけ大きな意思決定を下してきたかの積分値です。

そのため、会社で昇格して管理職になり、数多くの意思決定経験を積むことでCDOのスキルが身につくと言えます。

もしくは、「Webサービスで起業して1年間維持できた」「新規事業を立ち上げて子会社を経営した」などの経験があれば、マネジメントスキルを高めることもできます。

一度経営側に立つと、経営者の苦労が良く分かるので、経営者の信用を勝ち取ることが出来るでしょう。

おわりに

CDOの仕事内容は、非常に多岐にわたり責任も大きいため、かなりの激務で精神的な負担も大きくなりやすいです。また、求められるスキルセットも経験からでしか学べないものがほとんどで、候補となる人材も非常に少ないと思われます。 つまり、関連スキルを持った人にとってはかなり狙い目の領域と言えます。

私自身、今現在は機械学習エンジニアとして楽しく働けていますが、データサイエンスの大学院を出たバリバリの機械学習エンジニアと自分を単純に技術知識で比較すると、どうしても勝てないと感じることがあります。

そのため、ビジネススキルと技術スキルを掛け合わせた延長線上にあるCDOの役割には、かなり興味がありますし、今後のキャリアの目標の一つです。

将来経営幹部を目指すAI人材の方にとって、CDOは目標の一つとして目指しても良いのではないでしょうか。


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