「10年後の社会はどう変化しているのか?」という問いに対し、一つの回答を提示してくれる本です。

内容は丁寧で読みやすい内容になっています。会社勤めが当たり前と思っている今の社会が、今後どう変化していき、そのためどうすればいいのかという事を、テクノロジーとマーケットの観点から解説しています。


感想としては、大変面白い内容でした。
今回はChapter1の部分の、"社会がどうなるか"について紹介します。 
Chapter1のメッセージは、大きく3つありました。

変化①:利用者は非常に安く商品を享受することができる

スマホとSNSの普及によって取引コスト(ここでは販売管理費のこと)が0になり、また3Dプリンターによって開発コストが0になるためです。

変化②:貨幣経済から共有経済に移行していく

モノの貸し借り等の取引コストが0になることで、交換したり借りたりすることのハードルが劇的に下がるためです(東京と佐賀県のマッチングもネット上ですぐできる)。

変化③:企業の時代が終わり個人パワーシフトした社会変革になる

階層化された企業の管理コストが増大する一方、SNS等で人の仲介・取引コストが0になり、外部と容易に連携・協働できるようになるためです。


全て取引コストが0になることがポイントになっています。取引コストが0になる理由は、スマホの普及、SNSの拡大などによって根拠づけられており、事例も十分のため、非常に強いメッセージとなっています。



ではこれらの3つの変化は私たちにどのような影響が出てくるのでしょうか?

消費者への影響

これを私たちの生活がどうなるかという観点で見ていくと、①にように安く商品を買えるのでお金が要らず、多少高いものでも②の共有経済の発展によって、借りたり交換できるので、消費者としては非常にメリットのある社会になることが予想されます。

企業への影響

一方、企業側から見ると、非常に大きな脅威です。取引コストや開発コストが0になれば、商品は0円に近づくため、恐ろしい価格競争が起こることになります。競争相手は、ITを活用し限界までコスト削減してきています。3Dプリンターを一時的に借りて、ネット上で販売してくる事業者にメーカーはどう立ち向かえばいいのでしょうか。

ある素材メーカーの研究者にこの話を聞いたところ、こんな答えが返ってきました。

「社内で3Dプリンターについて調査・検証したところ、品質面において顧客が求める水準にはまだまだ達していない。そのため3Dプリンターの導入は見送ったし、現状では脅威とも感じていない」

確かに現在の3Dプリンターでは、対法人向けの事業は難しいかもしれません。しかし、対個人向けの事業においては、今後大きく普及してくることが予想されます。上記の研究者(とても優秀な研究者です)は、まさにイノベーションのジレンマの事象そのものであり、まさに企業が変化に対応することが求められてくると感じました。

労働者への影響

まず労働者の賃金は確実に下がることが見込まれます。既存の企業は急激な変化に巻き込まれるため、多くの企業において業績が悪化するためです。

一方、今後は、企業から個人へのパワーシフトしていきます。これはよく言われることですが、以下のような力学を明確化してくれたところに本書の価値があると感じます。

・SNSで外部の人と容易に連携・協働できるようになる
・よって、企業内に多くの部署を抱えることによる社内取引のコスト削減効果を無効化
・一方企業の管理コストが無視できないレベルまで達し、大企業の必要性が薄れてきた


大組織では、上司に説明するための膨大な資料作成や、管理コストは膨大でしょう。
そして誰もがこの事実を分かっているにもかかわらず、社内政治とコーポレート部門の存在意義存続のために、なかなか削減できないのです。

では、この本の言うように、個人にパワーシフトしているから、私たち労働者は起業すればいいのでしょうか。しかしそのためには、ベーシックインカムのようなセーフティーネットが必要と著者は言います。また、パラレルキャリアにように企業に勤めながらも個人で仕事をしていくことを勧めています。

これからは、生活コストが下がる一方、労働者は、お金よりも働く意義を求める時代なのかもしれません。