「始めて新規事業に携わる人向けに参考になる本はありますか?」との問い合わせを受けました。

確かに考えてみると、起業や経営戦略の本は多いですが、新規事業の本は世の中的にかなり少ないと思います。そこで、私が今まで読んだ本の中で、有益な本をランキング形式で紹介することにしました。

第10位 革新的ソフトウェア企業の作り方 Eric Sink

「Eric Sink on the Business of Software」の日本語訳です。ソフトウェアエンジニアの方が新規事業を行う場合は必読書です。エンジニア視点での事業戦略の考え方を解説されています。
特に"自分への質問"は、一度自分に問うことをおすすめします。以下抜粋。
 
①自分でこの製品を使うだろうか?
②この製品はニーズに合っているか?
③競合はどこか?
④何で差別化するのか? 
⑤製品を完成させるのにどれくらいかかるか?
⑥この製品はセールスパーソンが必要だろうか?
⑦どれだけのテクニカルサポートが必要だろうか?
⑧数字の上でうまくいくか?


第9位 新規事業開発 成功への80step 信田秀哉

初心者が新規事業の基礎を学ぶのに適した本です。実行プロセスについて解説されており、手順書として活用可能です。
「まず社内で情報収集の体制を整えよう」「展示会で業界の仕組みを知ろう」など、経験者ならではの言葉も随所に光ります。

第8位 新規事業立ち上げの教科書 冨田 賢


タイトル通り、新規事業の教科書です。内容は平易かつスタンダードで、社会人経験のある方ならば、容易に理解出来る内容です。未経験者の最初の一冊にお勧めです。

著者の冨田氏は、新規事業専門のコンサルティング会社の代表取締役です。特に業務提携が専門の方ですので、業務提携を視野に入れた新規事業を興す際は必読です。業務提携先の開拓でお困りの方は、冨田氏に相談されるのも良いかもしれません。とても熱い方です。
 

第7位 仮説力が身につく入門テキスト 西村克己

新規事業の本ではないのですが、事業開発担当の中核スキルである"仮説力"が身につく本です。

仮説とは「仮の結論」です。ちょっと調べて多分これだなと答えを推測し、具体的な検証を行うことです。 
・医者が、初診で盲腸と推定して、詳しい検査をする。
・自動車整備士が、エンジン音を聞いて故障部分を推測し、エンジンの中身を調べる。

これらは、仮説を立てて検証する力であり、最小労力で、答えを得る事が出来ます。
企画業務も同じで、ざっくり市場調査して、顧客に売れそうなアイデア(仮説)を立案して、それを顧客に提案したり、プロトタイプを作って実現性を検証します。ですので、仮説力は、新規事業の成功確率に直結します。

第6位 起業家のように企業で働く 小杉俊哉

起業家のように企業で働く 令和版
小杉 俊哉
クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
2019-04-19




このタイトルは非常に素敵だと思っていまして、まさに新規事業に携わるサラリーマンの生き方そのものです。本の内容も非常に示唆に富んでおり、会社内でどうすれば強く自由な立場で仕事が出来るかを解説してくれています。

本書は14刷のロングセラーで、2019年に令和版が出版されました。今から購入される方は、令和版をおすすめします。

第5位 頭が良くなる「図解思考」の技術 永田豊志

図解思考は、人に何を伝える時に重要になるスキルです。本書は図解思考を分かりやすく解説してくれる本です。
 
図解思考とは、物事を構造的に捉える思考力です。抽象的思考力と言ったりもします。"市場の構造"や"課題の構造"を捉える上で非常に役立ちます。
企画職は、業務の抽象度が高いため、事象の理解・整理には構造的思考が欠かせません。会社で役職が上がるほど求められるスキルでもあります。優秀な経営者は、このスキルが卓越しているのです。なぜなら図解思考は、物事の本質を掴む思考スキルだからです。

新規事業を問わず、多くの社会人に広くおすすめしたい本です。ホワイトボードの前で議論を図解化してリードできるとカッコよいです。リーダーの仕事とは、ホワイトボードの前に立つことでしょう。

第4位 社内起業成長戦略 ロバート・C・ウォルコット


主に新規事業を管理する経営層や、組織構築を担う経営企画部門が読者対象です。新規事業やイノベーションは顧客価値を提供することであり、必ずしも画期的なサービスを生み出すことではないと述べられています。また新しい顧客価値の提供には、ビジネスモデル全体の設計とそれを支援する遊撃部隊のような組織が必要だと主張しています。

おそらく新規事業をテーマとする本としては最高峰の書籍でしょう。順位がやや低めなのは、経営戦略や組織論に重点が置かれており、現場の事業開発より経営視点での話が中心だからです。

・ほとんどの企業は、新たなアイデアをそれほどたくさん必要としていない。必要なのは、成功しそうなアイデアを選び出し、最も有望なコンセプトを成果に結びつけるための優れた手法である。

イノベーションとは、企業の能力と市場ニーズを新たに結合させること。市場ニーズを満たすためには、必ずしも新技術や画期的なビジネスモデルのコンセプトが必要なわけではない。製品設計ばかりでなく、ビジネスモデル設計が成功に寄与している。

・社内起業を成功させる鍵は、顧客価値を創出・獲得することであり、必ずしも画期的な製品やサービスで市場に一番乗りすることではない。 

・社内起業チームが行う活動はすべて、何らかの形で、会社が表明している戦略ビジョンを支えるものだと周囲を納得させることから始めると良い。理想的な方法は、戦略に沿った活動が進行していることを示す明確な指標を作って、その指標をしっかりと追うこと。

第3位 経営企画部が日本企業をダメにする 仲村 和己

著者の仲村氏は、新規事業専門のコンサルティング会社の代表取締役です。特に戦略シナリオが専門の方です。読んでいくと、「あ、この人すごく頭がいいな」と感じられます。個人的には最も共感できる書籍でした。現役の事業開発担当の方に、読んで頂きたい一冊です。

ビジネスの本質は「投資」である

・ビジネスは戦略的なコンセプトやフレームワークで処理すればうまくいくという期待もあるが、コンセプト云々よりは、ニーズに関する真相究明の比重の方が大きい
 
労働の効力を規定する要素は、次第に人から企画力やITの要求定義の側にシフトする。現代ビジネスはテクニカルであり、複雑な要素を整理しながらでないと、業務がはかどらない。そして、本当にリアルな成果を上げたければ、絶対に良い企画書が必要になる。企画の世界にもクリエイティビティーも存在する。だから、より優れた企画、より優れたアイデアを常に追求する価値があると思う。

第2位 Hot Pepperミラクルストーリー 平尾勇司

著者の平尾氏は、リクルートでホットペッパー事業を立ち上げた方です。ホットペッパーの成功理由は組織的な営業力向上にありますが、戦略構築と組織構築のストーリーを体験できる本です。読み物としても大変面白いです。

面白い理由は、事業立ち上げの苦労を本書で追体験できるからです。また平尾氏の信念に基づく意思決定が、一つの哲学と呼べるレベルまで昇華されていると感じました。リーダーシップ論としても、最高峰の書籍です。市場開拓戦略を執行する営業企画・マーケティング担当の方に読んでほしい一冊です。

・営業計画力。担当の顧客分析から、自分がやるべき行動を整理して、優先順位を決めて、時間の中に入れ込んで計画を作る力だ。そのうえで、今月やること、今週やること、今日やることが整理されて、実行したかどうかを毎日確認する。 

リーダーとは物語を語る人。その物語は「この事業は何か?何を実現したいのか?」から始まって、「実現した時の世の中、この組織、個人の姿」「その実現に向けて、一人ひとりの役割とチームの役割」そして「一人ひとりの仕事とその人の人間的成長」までがシンプルに繋がっている物語を語る。 

・起こったことを上手に説明するのは誰でもできる。けれど、「これから何が起こるのか?何を起こすのか?どのようにして実現するのか?」を語れるのはリーダーしかいない

第1位 アントレプレナーの教科書 スティーブン・G・ブラン

新規事業の古典です。リーン・スタートアップの前身となった著書です。本書の結論を一言で言うと「顧客を知れ」ということです。具体的には、何度も顧客のところに通い、本当に売れるかどうか検証しながら進めることを主張しています。この手法は、いわば企画版のアジャイル開発です。特に、法人向け事業(BtoB)を立ち上げる人は必読書です。

この本の偉大なところは、新規事業開発に科学的アプローチを採用したことです。つまり、市場というブラックボックスに対し、仮説を投げかけて検証する。仮説検証を繰り返すことで、データが集まり、帰納的に企画案が検証できます。自然科学の研究開発と同じプロセスです。研究対象が市場か自然科学かの違いだけです。
また、過去の失敗事例も盛りだくさんです。読むことで事業の成功確率は確実に上がります。特に最初の50ページにエッセンスが集約されていますので、前半部分だけでも目を通すことをおすすめします。


霧の深いグレーゾーンに歩き疲れた事業開発担当の方、もしくは今後グレーゾーンを歩みたい方の参考になれば幸いです。特に今は激動期で世界全てがグレーゾーンと言えます。全ての社会人が新規事業的な思考法が求められているのかもしれません。